鳩山内閣で一時期20%にまで下がった内閣支持率は、菅直人新内閣の発足を契機に、民主党支持率とともに復調した。民主党幹部ですら驚きの回復を見せた内閣支持率ではあるが、このまま参院選を乗り切れるとは誰も思っていないだろう。昨年の政権交代の屈辱から再起を期す自民党、政界再編に向けた第三極の風を吹かせようとするみんなの党など、政治情勢は流動的だ。
消費税増税という大きなテーマもあり、日本の将来を占うとも言える今回の参院選の行方を、政治・選挙に精通した2人の評論家、政治ジャーナリストの角谷浩一氏と「溜池通信」を主催するかんべえ氏を招き、RPJ編集部を交え、「参院選予測座談会」と題してお話を伺った。
かんべえ氏「菅首相になって『第二自民党』の色彩が強まった」
【かんべえ】
菅さんが鳩山さんから変えたことはいろいろありまして。まず日米関係がありますね。また、政治主導と言わなくなったこと。そして経済界との距離感。
この3つは経済界からみるととても安心できることなんですね。ああよかったと。今まで、民主党政権が10年間続いたらどうしようか、と言っていたのですが、急に安定感が増してきた。
しかし、これは第二自民党としての色彩を深めたということでもある。もちろんコアの民主党支持層は逃げますよ。ただ、そうはいっても1億2千万の生命、財産守っていこうと思ったら、例えば日米関係ほったらかして日中でなんとかしましょうと言うのは無理なので、そこは学習効果だと思うんですよ。
政治主導についても、いま官僚機構はほっとしていると思いますよ。
しかし有権者には、「そこは言ったことの責任をある程度とってよ」という思いもある。どこまでが学習で、どこから先が裏切りなのかというのは、国民がこの選挙で審判することだと思いますね。
【RPJ編集部】
今は与党も野党も学習している状態で、政権交代実現という民主主義のコストだと考えて有権者は我慢しなければいけない。一方で、日本の経済の現状や将来の競争力といったことを考えると、そんな余裕は無いはず。この期間の政治に対する評価は、将来、歴史的に検証することしかできない。
【かんべえ】
最近、仕分けされる側の人が「とにかく記録を残しておいてくれ」ということを言っているそうですね。
1時間程度のその場の勢いで予算をいろいろ切られている。JAXAの「はやぶさ」は予算ばっさり切られてしまったが、たまたまみんなに忘れられる前に地球に帰ってきたから予算が復活しそうだけど、似たようなことはいっぱいあるはずだと思いますよね。これはちゃんと記録取っておいて、「あれが良かった、悪かった」、「責任者は誰だ」という余地を残しておかないとかわいそうですよね。
【角谷】
蓮舫議員は「2番じゃだめなんですか」という言葉で注目されて、それで本も出したのに、大臣になるとやはり1番を目指すべきだと発言を修正する。じゃあこの半年はなんだったんだということになる。これは、無駄を切るというときの「無駄」の定義はみんな違うんだ、ということだと思う。
たしかに専門家や勉強している人もたくさんいるし、仕分け作業への関心度は高いと思う。
もともと仕分けというのは当初は地方議会で始まったもの。外部のオンブズマン的に、予算がつまびらかになってゆく過程を見せるということだった。
だだ、これも「透明性を確保する」ということで、無駄を探し出すことを目的に地方で始まったわけじゃない。
つまり地方で成功したから国に持ってきたということ。もちろんそれが有効なこともある。推進する人もあって相応の努力もあったのかと思うし、「なるほど、こういうのを見られるのはおもしろい」と感じた人も多かったかもしれないけど、メディアはそこで「思ったより無駄がないじゃないか」という批判に対して「いや、これは無駄を探すことじゃない」と修正をする。
批判に対応して新しいことを始めるのなら、それはやめといた方がいい。批判を乗り越えてやるならいいが、批判されると、この政党、政権は場当たり的に修正するんですよ。で、止めればよかったか、というと、意味がある、と言う。
まあ、あえて言うなら、宝くじは面白い議論があった。歴代の事務次官、自治省経験者が雁首そろえて、財政局長と地方財政局長がうしろに隠れながら、前に事務次官経験者がどっかり座るという濃厚な場になった。つまり、俺達が宝くじの仕組みを作ったのだからというのがプンプンするような議論になった。宝くじの8割くらいはちゃんと還元されているが、残りはたくさんのぶらさがっている人のところへ行っているという現実がある。これはおかしいと。
でも、おかしいけれども、今回最終的には、原口大臣は、地方の声を取りまとめて秋にはどうするか決めるという。でも、その「地方の声」のほとんどが総務省から出向した人や、旧自治省や総務省出身の首長なわけで。
なので、地方の声を聞いたらだめだから、仕分けをしたわけです。仕分けというのは、地方の声じゃないところで考えましょうということなのに、地方にもどしたらもとの黙阿弥になるぞ、と思うが。
もったいなかった「事業仕分け」、新たな政治主導へ挑戦を
【RPJ編集部】
仕分けの話で言うと、政治主導という姿勢は間違いではなかったが、民主党は官僚組織が完全武装しているところに、竹やりを持った政務三役だけで乗り込んでいって、これまでのところは勝負にもならなかった。民主党はここでもう一度踏ん張って、官僚組織とどこでどう対峙して、どう官僚の能力を活用してゆくのかを考えてもらいたい。
仕分けの本来の目的は、官僚が考え出した天下りの仕組みがあって、国民の税金が無駄遣いされていることを透明性のある議論で明らかにすることであったはず、いつの間にか「2番じゃだめなんですか」、話題性のある議論に話が収斂してしまって、結果として深くえぐれなかったのはもったいない。
民間の仕分け人がいくら能力があっても、現実的には役所が持っている膨大なデータベースに対抗したり、彼らの口のうまさに対抗したりできるだけの能力も人数も揃ってなかった。だからメディアに露出をと言うことになったが、メディアはワイドショーネタにしか興味が無い。政治主導を実現するためには時間もヒトもお金も必要で、そのシステムをしっかり構築すべき。仙石さんが官房長官になったり、党内でも政調が復活したので、その辺はいい方向に進むことを期待したい。
では次に、各選挙区の情勢について議論をすすめてまいりましょう。
【角谷】、【かんべえ】
了解しました。